反応6-1
基礎有機化学24

図24

<求核付加反応>
 カルボニル化合物の性質カルボニル基は、炭素と酸素が二重結合で結ばれており、アルケンのC=C結合の片側の炭素を酸素に置き換えた形に相当する。炭素はsp2混成をとっており、残った2個の結合にどういう官能基が結合するかによっていろいろな化合物群(ケトンアルデヒドカルボン酸エステルアミドなど)になる。カルボニル基は電気陰性度の高い酸素が炭素とπ結合しているので、π結合電子は酸素に強くひきつけられており、酸素がδ-、炭素がδ+分極している。この炭素上の電子密度の低さが電子豊富な求核試剤のターゲットになる理由である。

 水和およびアセタール生成反応:アルデヒドやケトンへの水の付加反応は、塩基触媒、酸触媒の両方の機構がある。塩基触媒反応では、水酸化物アニオンがカルボニル炭素を攻撃して、二重結合のπ電子が酸素上へ移動したアニオンとなり、そこへ水素イオンが付加して反応が完結する。形式的には、カルボニルの二重結合の炭素側に水のOH-、酸素側にH+が付加する反応である。生成物はひとつの炭素に水酸基が二つ結合した形の分子で、水和物(ヒドラート)とよばれる。一方、酸触媒反応は、まず電子密度の高いカルボニル酸素へ水素イオンが付加したカチオンが最初に生成することによって、カルボニルのπ電子がより強く酸素側へ引き付けられ、反応性が高まった炭素を水分子の酸素のローンペアが攻撃する。続いてH+が脱離して水和物が生成する。
 アセタール化反応は水の代わりにアルコールの付加によって起きる。は分子内に複数の水酸基とアルデヒドやケトンをもつ分子であり、分子内アセタール化反応を起こしやすい。たとえば、グルコースは1位にアルデヒドもつ多価アルコールであり、立体的に有利な六員環を形成する位置のアルコール、すなわち5位の水酸基が分子内求核攻撃して環状ヘミアセタールに相当するピラノース構造を形成する。新たにできるアセタール炭素はsp3混成であり、ここが新たなキラル中心になるため、ピラノース型グルコースにはαアノマーとβアノマーの両異性体がある。

 グリニャール反応:炭素−金属結合をもつ有機金属化合物には合成上有用なものが多い。これは炭素−金属結合が炭素側がδ-、陽性な金属側がδ+に分極しているためである。有機化合物を合成するのに必要な炭素−炭素結合形成反応では、一般のハロゲン化アルキル、アルコール、カルボニル化合物など、電気陰性度の高い酸素やハロゲンに結合した炭素はすべてδ+に分極しているため、このような逆の極性(δ-)の炭素をいかに作り出すかがポイントになる。有機金属試薬はその代表であり、ここではマグネシウムを用いたグリニャール反応をとりあげる。ハロゲン化アルキルと金属マグネシウムをエーテル中で反応させると、マグネシウムが炭素−ハロゲン結合に挿入されたR-Mg-X型の分子が生成する。これがグリニャール試薬とよばれる。このマグネシウムの結合した炭素はδ-に分極しており、カルボニル炭素(δ+)に求核攻撃して新たなC-C結合をつくることができる。この場合の生成物はアルコールであり、たとえばアセトアルデヒド(CH3CHO)と臭化エチルマグネシウムからは、2-ブタノールが生成する。形式的にはこの反応はアルカンを一般式RHで表すと、カルボニルの炭素にR-、酸素にH+が付加する反応といえる。アルデヒドへの付加反応はこのように二級アルコールが、またケトンからは三級アルコールを合成することができる。また、一級アルコールはホルムアルデヒド(H2CO)から合成可能である。また、2-ブタノールはヨウ化メチルマグネシウムとプロピオンアルデヒド(CH3CH2CHO)の組み合わせでも合成できる。2-フェニル-2-ブタノールのような複雑な置換基をもつアルコールでは、三通りの組み合わせのいずれもが可能となる。


前の話へ ← → 次の話へ     
基礎有機化学の目次へもどる