コラム4
基礎有機化学54

<鏡像体を嗅ぎ分ける>
 昆虫はフェロモンとよばれる化学物質を個体間の情報伝達に利用している。その構造と活性の関係はきわめて精緻にコントロールされており、化学構造の微妙な差異を検知し分けるのはもちろんのこと、フェロモンレセプタータンパク質であるから、鏡像異性体間の活性の違いも顕著にあらわれる。

 たとえば、Western Pine Beetleの集合フェロモン(仲間を呼び寄せるフェロモン)であるexo-brevicominは(+)-体のみが活性を示し、(-)-体はまったくフェロモン活性がない。また、G. sulcatusの集合フェロモン、sulcatolは、ラセミ体のみが活性であり、(+)-体や(-)-体単独では活性がない。そして、マイマイガの性フェロモン(交尾のためにメスがオスを呼び寄せるフェロモン)であるdisparlureでは、(+)-体が活性であり、(-)-体は不活性であるだけでなく、(+)-体の活性を妨害する作用をもつ、などである。


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