コラム7
基礎有機化学57

<ムクゲの不可思議脂肪酸>
 三員環のシクロプロパンや四員環のシクロブタンはひずみの大きい化合物の代表だが、世の中にはもっともっとひずみの大きな化合物がたくさん存在する。そういったひずみの大きな化合物は当然不安定なので作るのが難しく、合成化学者の大きな目標となる。シクロプロパン環をつなぎあわせた正四面体構造の炭化水素テトラヘドランC4H4は合成困難な夢の化合物のひとつであったが、すでに合成が達成された。また正方形をつなぎあわせたサイコロ形のキュバンC8H8も合成されている。キュバンは大きなひずみエネルギーをもっているため、その誘導体は爆薬に利用可能とか。

 大きなひずみといえば、シクロプロパン環に二重結合をいれたシクロプロペンもそうで、結合角120度のsp2炭素を三角形に押し縮めた不安定分子だ。ところが驚いたことに天然にこのシクロプロペン環をもつ脂肪酸が存在している。アオイ科植物のムクゲなどに含まれるステルクリン酸がそれである。植物はどうやってこの高ひずみ環を生合成し、かつ安全に貯蔵しているのだろうか。


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