コラム9
基礎有機化学59

<ウサギの耳とガン>
 コールタールやタバコのタールの発ガン性は、含まれる多核芳香族炭化水素が原因である。ベンゼン環が平面に連なった分子はDNAの塩基対にはさみこまれやすく、塩基部分と結合して遺伝子の損傷をひきおこす。代表的な変異原物質であるベンズピレンは、生体内のモノオキシゲナーゼによってジオールエポキシドとよばれる活性型に酸化され、反応性に富むエポキシド(酸素を含む三員環)部分がDNAの塩基と反応する。

 コールタールの発ガン性を明らかにしたのが、有名な東大の山極、市川の実験(1915)である。彼らは来る日も来る日もウサギの耳にコールタールを塗布しつづけ、半年にしてガンをつくることに成功した。世界で初めて化学発ガンを実証した画期的な業績である。


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