おもしろ化合物第24話:「窓枠という名の炭化水素」




 平面四配位の炭素はつくれるか、という計算化学の話題は第22話「平面炭素は可能か?」でとりあげました。実際の合成化合物でどこまで平面性が達成されているか、というのが今回のお話です。
4枚のガラスがはまった田の字型の窓枠を考えてみます。中心の桟の交差する部分はすべての角度が直角です。これを炭化水素でつくれば平面炭素になりそうです。ただしすべての窓を正方形でつくるのはひずみが大きくて難しそうですね。

 一般にm,n,p,q角形の4枚の窓ガラスからなる窓枠型の炭化水素を[m.n.p.q]fenestraneといいます。"fenestra"は「壁面に穿った窓」の意ですから、さしずめ窓枠炭化水素でしょうか。方形の窓枠は[4.4.4.4]fenestraneになります。構造式で描くと平面のように見えますが、実際の分子は残念ながら平面ではありません。中心炭素はトランス形(1a)ではsp3様であり、シス形(1b)ではピラミッドの頂点様であると予想されます。この[4.4.4.4]fenestraneはその誘導体も含めてまだ合成には成功していませんが、窓ガラスが1枚五角形になった[4.4.4.5]fenestrane誘導体(2)が合成されていて、これが現在のところ最も平面に近い炭素ということになっています。1)

 この2について、加水分解p-ブロモアニリンとのアミドをつくってX線結晶解析が行なわれました。それによると、中心炭素の結合角は長手方向が128.0〜129.2°、曲がり方向が94.0〜116.1°となっています。ちょっと平面には程遠い感じです。
 ついでに合成ルートをご紹介しておきます。アルドール縮合で左上の五員環をつくり、[2+2]光環化で左下、右下の四員環を一挙に構築した後、カルベンの挿入反応で右上の五員環をつくり、最後に左上の環をジアゾケトンの縮環で四員環にするというルートです。

 ところで、平面四配位炭素の構築という点で全く異なるアプローチの化合物が最近合成されました。2) Al4C-というイオンはほぼ平面であることが知られていましたが、中性分子としてCAl3Si、CAl3Geが同様に平面構造だそうです。ちなみにAl4Cはテトラヘドラルです。



 1) V.B.Rao, C.F.George, S.Wolff and C.Agosta, J. Am. Chem. Soc., 1985, 107, 5732.
 2) L.-S.Wang, A.I.Boldyrev, X.Li and J.Simons, J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 7681.


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