D-グルコースをさがせ!


 グルコースの構造式を自由自在に描ければ一人前?かどうかはさておき、これが実はなかなか難しく、間違える人が多い。
 たとえばスコポレチンのような平面分子なら、どうひっくり返そうと自由だ。


 では、スコポレチンの7位のヒドロキシ基b-D-グルコシドになった配糖体スコポリンならどうだろう?


 同じにひっくり返すと…、おやおや対掌体になってしまったぞ。どこがおかしいのだろう?
 うっかりするとだまされてしまうが、これはもちろん立体的なはずのいす形配座の六員環を単なる平面とみなしてしまったための間違いだ。つまり、上記の配糖体は180度の反転ではなく鏡に映した形になっている。
 立体的に正しく描くと、左の分子のD-グルコースはベンゼン環に結合しているアノマー炭素から図の下につながる炭素鎖が手前側、図の上につながる環内酸素が向こう側に位置している。それを180度ひっくり返せば、向こう側の環内酸素が手前にきて、手前側の炭素鎖が逆に向こう側にいくはずだ。
 すなわち、正しいいす形配座では手前側にくるべき酸素原子が図の下になるように描かなければならない。


 整理してみると、いす形のD-グルコースを鏡に映すと当然対掌体のL-グルコースになるので、アノメリック炭素を左側に配置したD-グルコースを描きたい場合は、鏡に映した構造の1位と4位の炭素を固定して手前の鎖(2位と3位)と向こう側の鎖(5位と酸素)を入れ換えてやればいいということになる。
 なんだ簡単なことだ、もうだまされない。


 さて、ではこんどは鏡を横においてD-グルコースを縦方向に映してみよう。そうするとできた鏡像体L-グルコースになる…とつい思ったあなたは、ところがまだだまされている。実はこれはどちらもD-グルコースなのだ。


 落ち着いて手前の鎖と向こう側の鎖を描き分けてみればなんのことはない。手前側は鏡に映しても手前だから、結局2位と3位の炭素鎖が手前にあることになり、正しいいす形に書き直せばちゃんとL-グルコースになる。


 よし。これでもうグルコースの構造なんてこわくない。
 では次の構造式はD-グルコースかL-グルコースか? 制限時間10秒!(笑)


 むむ。酸素の位置がずれたらどう考えればいいのだろうか。これも実は落ち着いて考えれば難しくない。たとえば基本形のD-グルコース構造から時計回りに酸素の位置をひとつずらしてみる。するとできるのはL-グルコースになる。つまり、ジグザグ構造のいす形配座では隣同士の原子が上下上下の関係になるので、ひとつ隣にシフトすると不斉中心がひっくり返るからだ。
 このとき、ひっくり返ってL-グルコースになってしまった構造式をD-グルコースに書き換えたければ、前のように手前の鎖と向こう側の鎖を入れ換えてもいいし、もっと手っ取り早くするには環内酸素の両側の炭素(1位のアノマー炭素と5位のヒドロキシメチルの根元の炭素)を入れ換えてしまえばいい。


 というわけで、最後に全員集合! 間違えてないだろうな(笑)。


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