ちょっと構造を書いてみましょう。
[6]helicene の両異性体のねじれのようすがよくわかるでしょうか(欠けているベンゼン環が下になっている)。この [6]helicene の合成と光学分割は1956年に報告されていますが、これが世界で初めて平面のベンゼン環のみでキラルな分子をつくった例となっています。
さて、その光学分割はどうやるかというと、常法通り他のキラルな分子との複合体のつくりやすさの違いを利用してわけるのですが、ここで使われているのが光学活性 2-(2,4,5,7-tetranitro-9-fluorenylideneaminooxy)-propionic acid(TAPA)です。どこからこんなへんてこなキラル分子をもってきたのか不思議ですが、このTAPAを使って見事に(R)と(S)の [6]helicene が得られました。この光学活性ヘリセン、旋光度([α]D)が約3700度といいますから驚きです。
ところで、[6]helicene にさらにベンゼン環をつないでいくと長いらせん状になり、すでに [14]helicene なども合成されています。このくらいになると、一部はベンゼン環が三層になっているわけですからすごいですね。これくらい分子がねじれてくると、ラセミ体の溶液からそのままで右らせんと左らせんの結晶が分かれて晶出してくるそうです。
いま私がやっている「おもしろ化合物ゼミ」の内容からご紹介しました。どうもここではあまりこういう構造有機ネタは好まれないようですが、たまにはこんなのもいかがでしょうか。