おもしろ化合物 第11話:「アホウドリの羽ばたき」



NIFTY SERVE FCHEMT 13番【有機】会議室 #800(97/9/13)より

 月一という声がかかってしまいましたので、第11話いきます。でもあくまで「不定期」ね(笑)。

 albatrosseneという雄大な名前の炭化水素が合成されました。さて、アホウドリのように悠然と羽ばたくことはできるかな?

 ナフタレンのすべての水素をベンゼン環で置き換えた化合物がこのoctaphenylnaphthaleneです。これはまだアホウドリではないのですが(^^;、これが以後の化合物の基本をなすユニットといえます。ちなみにこの化合物は1,3-diphenylacetoneとbenzil(dibenzoyl)を原料として容易に合成することができます。いかにも窮屈そうで、ベンゼン環は自由に回転できるのだろうかと心配ですが、まだまだこれからです(笑)。

 このoctaphenylnaphthaleneを二つつないだ形がalbatrosseneで、二つのユニットが大きな翼に見立てられているのでしょう。実際の分子の形も両ユニットのすきまが裂け目のようになっているそうです。
 合成法は意外と簡単で、benzene-1,3-diacetic acidから出発して、酸クロリドにしたあとFriedel-Craftsアシル化でベンゼンにくっつけ、両側のベンジル位を酸化してテトラケトンにします。この両側のαジケトンを1,3-diphenylacetoneの活性メチレンアルドール縮合するとテトラフェニルシクロペンタジエノン体が得られます。これをtetraphenylanthranilic acidから調製したジアゾニウムイオン経由のベンザイン(でしょうね)とDiels-Alder付加、脱カルボニルで目的のalbatrosseneができます。通算収率は3%です。
 で、合成した結晶についてX線結晶解析が行われ、分子のパッキングのようすなどが掲載されています。
 ところで、気になるのはベンゼン環の回転です。13C-NMRでは70本を超えるシグナルが観測され、コンホーマー間の変換が遅いことがわかります(完全自由回転だと炭素は42種類)。これはさもありなんですが驚くべきは次の化合物です。

 アホウドリというよりは雪の結晶を思わせるこの化合物、ベンゼン環ばかりからできているので、さながら大きな二重プロペラでしょうか。これも合成されまして、その13C-NMRは18本のシグナルしか観測されないことが示されています。すなわちNMRのタイムスケールではすべてのベンゼン環は自由に回転しているわけです。う〜ん、からまっちゃたりしないんでしょうかね(笑)。ちなみに、真ん中のベンゼン環につながっている三個のベンゼン環をナフタレン環(もちろんすべてフェニル化されている)に変えた分子も合成され、それでは自由回転が見られないことも示されています。そこまでよくやるな、という気もしますが(^^;、ナフタレン環はやはりベンゼン環よりも剛直な面があるようですね。

 ref.:L.Tong,D.M.Ho,N.J.Vogelaar,C.E.Schutt and R.A.Pascal,Jr. J.Am.Chem.Soc.,1997,119,7291-7302.

junk (JAH00636) 川端 潤     

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