おもしろ化合物 第18話:「ゼノンもびっくり?」




 ゼノンといえばアキレスと亀のパラドクスで有名な古代ギリシャの哲学者ですが、そのゼノンもびっくりな化合物が合成されました。ペンタフルオロフェニルジフルオロキセノン(IV)テトラフルオロボレートという舌を噛みそうな名前の化合物がそれです。やたらフッ素がはいってるのはわかりますが、いったい何者でしょう(笑)。

 ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、とくれば18族の希ガス元素です。化学の授業では、電子殻が満たされているために非常に安定な元素で他の元素と化合物をつくらない、だから不活性ガスなどとよばれると習いました。けれど、その希ガス元素とはいえ全く化合物をつくらないわけではなく、特に重い方のキセノンやクリプトンなんかはちゃんと化学結合による化合物をつくるというのも、もう珍しい話ではなくなってますね。はじめての希ガス化合物XePtF6が合成されたのが1962年ですからもう40年近い歴史があります。
 フッ素はきわめて反応性の高い元素ですから、キセノンから無理やり電子を奪ってフッ化物にしてしまうというのはありそうな話です。ところが今回合成されたのは、なんと有機キセノン化合物です。ちゃんとC-Xe結合をもっています。有機金属化合物はいまやあらゆる金属について知られているそうですが、有機希ガス化合物となると、ちょっと驚きます。ところが今回初めて合成されたのは有機キセノン(IV)化合物としてはであって、キセノン(II)化合物は1989年にすでに合成されているのだそうです。
 さて、今回の合成法は以下の通り。

 ジクロロメタン中、-55℃で混合するだけで定量的に生成します。生成物は黄色の固体で-20℃以上では分解するとのことです。
 で、生成物の機器分析を当然するわけですが、こういう化合物になるとNMRだけでも4種類が必要になるので大変です。ちょっとデータの一部を引用しておきます。129Xe NMRなんて初めてみました。

 ゼノンもびっくりですね、としめくくればめでたしめでたしなんですが、慧眼の読者諸氏はもうお気づきのように、ギリシャのゼノンはZeno(n)、キセノンはXenon(未知なるものの意)ですから、今回のタイトルは単なる駄洒落なのでした。失礼。

 ref. H.-J.Frohn et al., Angew.Chem.Int.Ed., 39, 391 (2000)


前の話へ ← → 次の話へ     
おもしろ化合物の目次へもどる