Eupenicillium alutaceumの生産するalutacenoic acid A(1)とB(2)がそれです。こんなものを生物がつくっているとは驚異です。いったいどうやって生合成されるのか大変興味があります。
シクロプロペノン環自体はカルボニルの分極で2π芳香族性をもちますから、立体ひずみはともかくとして、安定要素がないわけではないですね。たとえば鎖の長い方の化合物は-20℃では2年以上安定だそうです(そんなに以前にとられてたのね(^^;)。
こんなへんてこなものがとれてくると、構造は正しいのだろうかと不安になりますが、ちゃんと合成して構造の確認がなされています。う〜む、末端のアルコールを酸化する前に保護基を落としちゃうなんて大胆ですね。
当然のことながら天然由来のシクロプロペノンは大変珍しく、今回の化合物が4,5例目だそうです。前にベルリンの故Bohlmannがセスキテルペンのイソプロピル側鎖がシクロプロペノンになったやつを報告していたのを原報で読んで驚いたのを思い出しました。余談ですが、ひところのBohlmann、Zdero一派の精力的な植物成分研究はすごかったです。Phytochemistry誌なんかに毎号10報くらいずつ載ってたりして(^^;。
しかし、こういう突拍子もないものが取れましたというだけなら驚きもまあまあなんですけど、これが生理活性のスクリーニングでひっかかってきたというところがほんとに驚きです。
血液凝固は多段階の連続反応からなりますが、その最終段階を触媒するのがXIII因子(トランスグルタミナーゼ)で、フィブリンのグルタミン酸のγ-カルボキシ基とリシンのε-アミノ基を縮合させて架橋分子をつくります。上記の1と2はいずれもこのXIII因子の阻害活性をμMオーダーで示すそうです。さらに類縁体を合成した結果、2のβ-フェネチルアミドが最も活性が強いことがわかっています。
いや、おそれいりました(笑)。
ref. H. Kogen et al., J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 1842.