第1期 2014年6月5日(木)~8日(日)
第1番霊山寺~第17番井戸寺~徳島 96.7 km (累計 96.7 km)
0.出発まで
1.2014年6月5日(木)札幌=神戸=鳴門西~1番霊山寺~4番大日寺~板野羅漢
2.2014年6月6日(金)板野羅漢~5番地蔵寺~11番藤井寺~鴨島飯尾
3.2014年6月7日(土)鴨島飯尾~12番焼山寺~神山温泉
4.2014年6月8日(日)神山温泉~13番大日寺~17番井戸寺~徳島駅=神戸=札幌
0.出発まで
いよいよ四国遍路を始めるにあたって各種資料を集めて計画を立てる。四国は遠く、まずどうやって四国入りするかがすでに問題だ。千歳から徳島へは直行便がないので、羽田乗継ぎが一般的だが、乗継ぎするとお金が余分にかかる。直行便があるルートで徳島入りに便利そうな空港となると神戸ということになり、神戸空港からポートライナーで三宮へ出て淡路島経由の高速バスに乗れば2時間ほどで徳島に着ける。これが最短だろう。
空港から徳島駅へ出て1番霊山寺もよりの板東へJRで行くのが一般的なルートだが、高速バスには高速鳴門という停留所があり、そこで降りるとJR鳴門駅に近いことがわかった。鳴門から板東へは池谷乗り換えになるけれど、接続がよければ徳島まで行って戻るより順路で近い。などと考えながら霊山寺付近の地図をみていたら、すぐ近くの高速道路上に鳴門西SAがあってバスが停まることがわかった。この鳴門西という停留所は徳島行き高速バスの経路にはなく、鳴門から分かれる高松方面へのルート上にあり、三宮から高松へ行くバスが停まることもわかった。なるほど高松行きは瀬戸大橋回りだと遠いので鳴門大橋から行くのだ。鳴門西から霊山寺へは歩いて15分くらいだからこれを使わない手はない。
幸いAIRDOの始発便千歳8:05-10:00神戸を早割でとることができた。ということで三宮から高松行きバスに乗って鳴門西下車というルートを選ぶことにした。ただ飛行機の到着は往々にして遅れることがあるので、何時のバスに乗れるかが読みにくい。定刻に着けばポートライナーは所要18分なので三宮11:05発のバスに乗れるだろう。それだと霊山寺には13時過ぎに着ける。次のバスは12:05発でこれだと14時過ぎになってしまう。この1時間は結構大きい。というのも初日の宿をどこにするかがここで決まるからだ。というか全体の行程に影響してくる。
3泊4日で17番井戸寺まで回るのを今回の予定にしている。帰りの方はというと17番から近いのは徳島線府中駅なので、そこからJRで徳島に出てバスで三宮にもどるというルートになる。残念ながらもたもたしているうちに神戸空港発の最終便19:00の早割切符が売り切れてしまった。しようがないので代わりに伊丹空港発19:00を次善策として押さえる。三宮~伊丹はバスで40分なのでまあいいほうだろう。ということで余裕を見て徳島15:00発のバスに乗ればよいことになり、逆算して府中発14:11のJRとなる。
前日に12番焼山寺を越えてどこかに泊まり、最終日に13~17番を打って14時に府中駅に着かねばならない。この間のルートの宿は限られていて、山を降りた鍋岩に2軒、そこから峠越えした鮎喰川沿いに1軒、遠回りになるが神山町集落に3軒というところ。鮎喰川沿いの植村旅館に泊まれば最終日は楽勝だが、前日に焼山寺の険しい山を越えてさらに峠越えしなければならず雨でも降るとしんどいことになる。一方、神山町には温泉があり民宿に泊まっても近くの温泉施設に入湯できるらしい。これは魅力だ。ということで3日目の宿は神山温泉にすることにした。最終日は朝早く出て頑張って歩かねばならないが15, 16番あたりまで来ればもう府中駅が近いので、最悪そこで打ち止めにすることもできる。17番まで打ったとて次回再開時に府中まで来なければならないのは同じことだし。
さて次はさかのぼって2日目の宿。初日にどこに泊まるかによって2日目どのくらい進めるかが決まるが、できるだけ焼山寺上り口の11番近くまで行っておきたい。2日目は10番を打ってから11番までは2時間半くらいかかるが、11番の納経は翌朝にすることにすれば10番を17時までに打てばよいので時間に余裕がある。しかしその場合11番ふもとの鴨島市街地まで来ないと宿がない。遅く着いて早く発つ可能性を考えると出入りに気兼ねしないビジネスホテルがいいのだが、街道沿いのホテルはなんとこの日はすでに満室。翌日は空いているのに。旅館に泊まるのなら鴨島市街より11番のすぐ近くの1軒の方が翌日の便がいい。11番を翌朝打つにしても7時半には登りだせそうだ。ただしそうなるとその前日はあまりのんびりできないので初日に少しでも進んでおきたい。ということで初日は5番近くの羅漢に1軒だけある宿ということになる。三宮11時のバスならまあまあ余裕でうまくいけば4, 5番を打って宿にはいれそう。12時のバスになったら3番から宿に直行し、4, 5番を打つのは翌朝にすればよい。
やっと行程が確定したので、5月21日に6/5民宿森本屋、6/6旅館吉野、6/7民宿あすか、に電話を入れて予約した。いずれもOK。あすかのおばさんは名前をちゃんとフルネームで聞き、お寺参りですか(そうです)、何度か回られてるんですか(初めてです)、前日どこに泊まりますか(藤井寺の近くの吉野のつもり)、と細かい。今かけている携帯をもってきますか(はい)、とこのへんは慣れた感じ。吉野のおじさんは型通り。苗字、1名、携帯番号を聞く。森本屋のばあちゃんも同じ、2食付きで6500円ですと、しっかりしている。
1.2014年6月5日(木) 札幌=神戸=鳴門西~1番霊山寺~4番大日寺~板野羅漢
コースタイム
出発地,出発時刻,便名,到着時刻,到着地(歩行距離, 所要時間),滞在時間
あいの里教育大,547,520M~3850M,653,新千歳空港
千歳,805,ADO126,1000,神戸
神戸空港,1015,ポートライナー,1033,三宮
三宮ターミナル,1105,高松EXP9,1250,鳴門西
鳴門西,1247,,1259,1番霊山寺(1.3 km, 0:12),0:57
1番,1356,,1409,2番極楽寺(1.3 km, 0:13),0:20
2番,1429,,1458,3番金泉寺(2.8 km, 0:29),0:17
3番,1515,,1614,4番大日寺(5.8 km, 0:59),0:25
4番,1639,,1705,板野羅漢(1.9 km, 0:26)
札幌=神戸=鳴門西~1番霊山寺
朝4時半に起き5:35に出発。外は風が涼しい。学園都市線の始発新千歳空港行き。先頭車は2, 3人。やはり4号車(uシート)に集中している。途中からどんどん乗ってきて満席になるが、札幌でだいたい入れ替わる。やはり乗換えなくてよいのは楽だ。1時間かかって新千歳空港に到着。AIRDOはチェックイン機がなくなってカウンターで手続きをする。すぐに手荷物検査へ。いつもと違ってデイパックにウェストポーチという軽装なので違和感がある。仕事以外で飛行機に乗るのは長崎旅行以来かも。搭乗待合室でトイレへ。洋式は込んでいて3か所目で空室にあたった。売店でサンドイッチとお茶を買う。もう食べたいけれど昼食用なのでがまん。
新千歳空港
7:50に搭乗開始。機材が小さいのですぐ終わる。搭乗率90%くらいだろうか。4C席と前方通路側だったのでスムーズ。ザックは前席の下へ。ただし通路側席は幅が狭く、斜めに押し込んだ。8:03に出発。靴を脱ぐと楽だが、靴下はだしだと上空で床が冷たいのにびっくり。ほとんど揺れもなく9:59に到着。余裕で11時のバスに間に合いそうだ。空港でもう一度トイレへ寄る。排泄完了ですっきりした。到着ロビーから上に上がるとポートライナーへの連絡通路はすぐ。トイレに寄っても予定より1本早い10:15発に十分間に合う。3月からSuicaが使えるようになったのに気づかずうっかり券を買ってしまった。雨上がり後のようで青空が見えて明るい。ホームはクローズドなのに強風がビュービュー音を立てている。海峡橋は大丈夫かなと心配になる。
ポートライナー
バスターミナルのはいっているミントというビルの横をかすめて三宮到着。改札口を出て右へ行って下りるとJR三宮、左へ回廊を行くとミントという位置関係になっている。戸外のエスカレータを下りるとそこがバス乗り場で四国方面は一番手前から出る。きれいな待合室があって中に切符売場もある。次々に各方面のバスがくるがどのバスも空いている。ほぼ埋まっている待合室のイスになんとか空席を見つけてサンドイッチの昼食。ごみ箱が見あたらずポートライナーの駅まで捨てに行く。
三宮バスターミナル
高松エクスプレス9号
定刻5分前に11:05発のバスが来た。お客は4人だけ。ぼくは5A席だけどばあさん3人が1A, 2A, 2Dという感じ。webで座席指定したときに前の方は空いていなかったけど前方席は年寄用なのか(ということはなく予約サイトによって割振りが異なっているらしい)。これなら飛び込みでも大丈夫だったな。乗車時に運転手がバインダーの予約表を見ながらチェックする。プリントアウトしたweb乗車票に検印を押してもらって乗る。運転手はとても愛想よく案内も丁寧で感心する。バスは普通の4列座席。進行方向に向って左最後尾にトイレ。シートベルトは腰固定式であらかじめバックルに挿してあるのでいったんはずして座ってからまた締める。強制ではないようだ。
三宮を定時に発車。すぐ高速にはいり大きなジャンクションをぐるぐる回って舞子に停車。少し早着らしく時間調整をする。なんとおっさんが1人乗車。他のバスを待っている人もいた。意外だったがここはJR・山陽電鉄舞子駅接続で便利な場所なのだった。目の前がすぐに明石大橋で淡路島へ渡る。のどかな島内は景色も平凡で退屈、眠くなる。途中の緑公園でトイレ休憩(12:27-12:37)があった。ほぼ定刻運転だ。鳴門橋を四国へ渡る。時折りパラパラと小雨が降り出す。変わりやすい天気だ。すぐに鳴門西に12:48着。おどろいたことにばあさんが1人一緒に降りた。web乗車票は回収される。ばあさんは迎えの車へ。
鳴門西バス停
ゲートに遍路シール
雨が落ちているが傘をさすほどではない。きれいなトイレがあったので寄る。地図をたよりに遊歩道の方へ歩き出すが、起伏があって木が茂り見通しがきかないので1番への順路である高速道路を渡る歩道橋への道がわからない。遊歩道から一般道へでるゲートがあって扉に遍路道シールが貼ってあったので扉を押して出る。どんどん下って行きどうも方向が違うようだ。スマホのグーグルマップで確認すると、南下して街道に出る道とわかる。戻る気もしないしそっちから行っても距離的にそんなに変わらないはずなのでそのまま進む。
門前一番街が見えてくる
巡拝用品売場
グーグルマップを頼りに15分ほど歩くと1番門前の門前一番街に着いた。けっこう大きくてきれいな店だ。バス停側から手前に遍路用品店があり棟続きで山門側に一般の売店となっている。遍路用品売り場に入る。各種遍路用品がずらりと並んでいる。店内に客はなくレジの若い子が売店のほうの年配の店員を呼んでくると、その人がお遍路用品を見立ててくれた。まずは金剛杖。杖は先が丸いのと、般若心経入りのと、普通のと3種あり、この順に高い。一番安い普通のにする。白木の角材で面取りしてある。見かけは同じようでも持ってみると重さが違う。先端にかぶせるカバーもデザインがいろいろある。杖とカバーを自由に組み合わせていいというので、軽めの杖に青っぽいカバーにした。名前を書く場所をきいて同行二人の刻印の裏側にサインペンで記名する。次に白衣。サイズ決め試着用のを着てみると、Lだと袖丈が短いし、LLだと全体に大きすぎる。身長的にはLLだけど体型的にはL。おばさんもうーんという感じ。LLはさすがに全体にだふっとして袖も長くこの時期暑そうだったので、小さ目のLにした。多少つんつるてんなのは我慢しよう。結果的にこれでよかったと思う。最後は笠。大小2種あって大きさが大分違う。中間のがあればいいんですけどねとおばさん。まだ雨が降りそうだしここは大にする。通販で事前に入手しておいた笠フィットもちゃんと売っていた。会員カードを作って即割引にしてくれたけれど3品で6500円と高い買い物になった。
まず笠に笠フィットを取り付ける。まごまごやっているとおばさんが手伝ってくれた。顎紐が意外と短くベルクロを手さぐりで留めるので結構難しい。そのうち慣れるだろう(実際すぐ慣れた)。顎紐が締まって少し痛い。頭の五徳もあとで痛くなってくる。ただ笠自体の違和感とか重さはあまり感じない。思ったほどうっとうしくもない。歩くとギシギシいったり雨が当たる音がしたり、自分の発する音だとわからなくてあれと思ったりはした。蒸し暑いので長袖シャツを脱いでランニングの上に直接白衣を着る。
さて、杖をもっていよいよ出発。すぐ横の山門から1番霊山寺境内へ。ふつうの服装の観光客がぱらぱら。遍路装束の人も数人。杖立が要所要所にある。手を清めて本堂へ。ロウソクと線香に火をつけて上げるのが手間取る。特に線香が折れやすくて扱いにくく、火も着きにくい。納札して賽銭5円(御縁)をあげ、経本を開いて納経する。これはやってみるとちゃんと声が出た。声高く読んでいる人など他にいないので、朗々と読み上げるとちょっとうれしい。大師堂でも同じことを繰り返す。ここの境内は広くてお寺らしい。
無事に1番を打ち終えたつもりで予定より30分も早く県道12号線撫養街道を次へ向かう。気を良くして5分くらい歩いたところで大変なことに気づいた。納経帳に記帳してもらうのを忘れている。なんと一番大事なことを。青くなってきた道をもどる。同じ道を3度目歩いてまた門前一番街の前を通って逆戻り。しかし早く気づいてよかった。1番の納経所は目立たない。本堂の中右手にあって中が広い。上品なおばあさんが達筆でさらさらと書いてくれる。歩き遍路初心者とみてパンフをくれてお参りの仕方をていねいに説明してくれる。さすが1番さん。やれやれと山門前へ出ると観光客らしい女性3人連れが来たので写真を撮ってもらう。台湾から来た人だった。
1番霊山寺~2番極楽寺
さてあらためて出発。今度こそ快調に歩く。14分ほどで2番極楽寺へ。立派な山門。ここも参拝客が数人。またロウソク、線香、納札、賽銭、納経と型どおりのお参り。必要なものがあちこちにしまってあるので効率が悪い。ロウソクや線香は仕方ないけれど、納め札と経本はすぐ出せるように白衣の前ポケットに入れることにする。賽銭も次の分を2枚分けて入れておく。これで大分やりやすくなった。何事も経験してみないとわからない。こんどはちゃんと納経所へ。ここは本堂と大師堂が奥まっていて間に大きな杉がある。納経所が団体用と個人用とに分かれていて場所すら違うのはよいシステムだ。中でお餅を売っていていかがですかと声をかけられたが接待ではないようなので遠慮しておく。自販機で水を買う。なんとEdyが使えた。
撫養街道を極楽寺へ
極楽寺山門
境内
本堂
大師堂
弘法大師御手植長命杉
2番極楽寺~3番金泉寺
さて3番へはまた撫養街道に沿って行く。途中で左手からカンカンと踏切の音。ちょうど阿波川端駅付近だ。ちょっと道をそれて記念に駅の写真をとる。すぐに高松行きの特急2両編成が通り過ぎた。すぐ右手の川端郵便局もついでに撮る。
四国のみち道標
阿波川端駅
川端郵便局
金泉寺へのあぜ道
街道にもどって右手の田んぼのあぜ道に遍路シールが。昔の道らしい。雨上がりでぬかるんでその先は草がかぶり歩きにくいがすぐに3番金泉寺裏手に出る。型通りお参り。納経所のおばさんは親切で、裏手から境内にはいったので4番大日寺への道をきくと地図を出して丁寧に教えてくれる。要は山門を出て右手に行けばよいのだが、先の方で昔ながらの遍路道はあぜ道で歩きにくいかもしれないので、そのときは遠回りでも車道経由のほうがよいとか細かいアドバイス。2番も3番も納経所は近代的できれいで、お寺じゃないみたいだ。
裏手から金泉寺にはいる
本堂
大師堂
山門から出る
3番金泉寺~4番大日寺
山門を出て右手へどんどん行く。さすがに疲れてきた。最初は杖の突き方がわからず突くとかえって歩きにくかったが、慣れてくるとリズミカルに杖を突いた方が楽とわかる。板野の町を過ぎて高徳線の踏切を渡る。徳島自動車道の下をくぐってすぐの右手に遍路道の案内があった。マムシが出ますの注意書きも。うーむと少し行ってみたら雨上がりの濡れた草がぼうぼうにかぶって歩きにくそうだったので、恐れてもどる。車道の方を行くことにしよう。遠回りだけど頑張って歩けばよい。しかし暑い。背中がぐしょぐしょだ。上はランニングに白衣だからまだしも、下の長ズボンが暑い。車道を右折して4番大日寺への上りにかかる。大した坂ではないが歩き慣れない初日の疲れのせいかきつく感じる。人里を離れて山へ分け入る感じ。右手に四阿があって旅人らしき人が休んでいる。そのうち薄暗い雲が見る間に広がったと思ったらザーッと夕立になった。何もないところでたちまちびしょ濡れになる。やがて山門が見えてきたのでそこまでとりあえず濡れながら歩く。ひどい雨だ。山門内でポンチョを出して着る。これが扱いにくい。まず笠が邪魔、というか脱がないとそもそも着られない。ポンチョかぶってどっちが前だ、手はどこから出すんだ、と悪戦苦闘でやっと着た。
大日寺山門
境内
雨の境内に人気はない。坊さんがひとり片付けをしている。灯明台も線香台もまっさらになっている。ポンチョを着たままお参り。線香点けるとき下を向くと笠から雨しずくがザーッ。まったくやりにくい。なんとかお参りを終えてさっきからうろうろしていた坊さんに納経帳に記帳してもらう。終始無言で愛想というものがまるでない。せっかく片づけたのに今頃来るなよってところか。幸い雨が上がりかけてきた。ポンチョはまだ着たまま歩くことにするが、着たままリュックを背負うのがまた難しい。どうしても裾をたくしこんでしまう。結局一回脱いでから、リュック→ポンチョ→笠の順に身に着けないとうまくいかないことがわかった。まったく。
4番大日寺~板野羅漢
山門を出るとすぐに雨が上がった。来た道をもどり、途中の四阿でポンチョを脱いでしまう。涼しくて快適だ。3番を出たときは4番を経て5番地蔵寺まで行けそうだと思ったが、雨で手間取ったので遅くなり、もうこれから5番の納経は間に合いそうもない。というわけで急ぐこともない。ゆるゆると坂を下る。これはこれで快適だ。何も急いで行くばかりが能ではない。きっとお大師様がそう教えるために雨を降らせたのだ。そんな気にさえなる。修行修行。5番は明朝行けばなんてことないのだ。
雨上がりの大日寺を出る
森本屋の看板とばあちゃん
その5番近くまで下りてくると「森本屋こっち」の大きな看板がある。その下にばあちゃんが立って見ている。何も言わないので通り過ぎて右折、すぐ5番の山門前を左折すると左手が今日の宿森本屋だった。17時過ぎに到着。改装したばかりみたいにきれいだ。入口の扉が開いてさっきのばあちゃんが顔を出す。やっぱり森本屋のばあちゃんだったのか。初めての遍路宿で少し緊張する。はいると中もきれい。ばあちゃんが杖を受け取って洗面所で洗ってくれる。半畳の畳が敷き詰められた部屋もきれい。6畳間で右奥に床の間?にしては高い台。その奥に杖を安置してくれる。他に客はなく閑散としている。テレビもエアコンもある。湯沸し電気ポットらしきものもあったけどお茶セットがどこを探してもない。すぐに着替えて風呂へ。タオルと浴衣はついていた。家庭用より少し広いくらいの風呂だけどとにかく極楽。ありがたい。足は疲れているがまだマメはできてない。まあ今日は短いからな。ポンプ式ボディソープとシャンプーがついている。上がるとすぐに夕飯をどうぞと声がかかる。食堂?の和室テーブルに1人前の食事がポツンと並べられている。うーん他に客はないのか。18時頃に食事。出してあったので汁物は冷めているのが残念。刺身、鯛焼魚などまあまあ豪華だと思う。自分でお櫃からよそって食べる。3膳飯。飲み物はときかれたけど断る。遍路中は禁酒だ。嫌いなものも残さない、完食。宿帳が記入用に出してある。みると6月は1日に3人、2日に1人あってその次が5日のぼくだ。空いている時期なんだなあ。もどると布団が敷いてあった。笠のビニールカバーをはずして拭く。日記をつけて、21:10に就寝。
2.2014年6月6日(金) 板野羅漢~5番地蔵寺~11番藤井寺~鴨島飯尾
コースタイム
出発地,出発時刻,便名,到着時刻,到着地(歩行距離, 所要時間),滞在時間
板野羅漢,713,,715,5番地蔵寺(0.1 km, 0:02),0:21
5番,736,,835,6番安楽寺(5.6 km, 0:59),0:35
6番,910,,923,7番十楽寺(1.3 km, 0:13),0:24
7番,947,,1034,8番熊谷寺(4.3 km, 0:47),0:18
8番,1052,,1124,9番法輪寺(3.1 km, 0:32),0:44
9番,1208,,1255,10番切幡寺(4.1 km, 0:47),0:36
10番,1331,,1530,11番藤井寺(10.2 km, 1:59),0:19
11番,1549,,1557, 鴨島飯尾(0.7 km, 0:08)
板野羅漢~5番地蔵寺
朝5時半に目覚ましをかけ、スヌーズ1回で5:40に起きる。洗面してるときにもうはや朝食どうぞの声がかかり、5:55には食べ始める。昨夜と同じ部屋だ。朝は2膳飯完食。朝の食べ過ぎはよくないことを後で思い知ることになる。
朝食
部屋に戻り身支度。今日は短パンにTシャツにする。夜半から明け方に大雨が降っていたような音がしていたが、朝になってもまだしとしとと降っている。白衣を重ねると暑そうだったので、Tシャツにじかにポンチョを着ることにする。気配がなかったので朝のトイレは済まさないまま出発。出がけに玄関で会計6500円の支払い。必要なことしかしゃべらない愛想のないばあちゃんだが根は親切で、ポンチョ着るのにまたもたもたしていたらここから手を出すんだとか手伝ってくれて、雨の玄関先で見送ってくれる。
7:10出発。右手すぐに5番の山門。朝早い雨の境内は無人。一番乗りで気持ちいい。雨じゃなきゃなと思う。ここには有名な五百羅漢があるのだけれど雨の中を見に行くのはおっくうで見学はパス。お参りだけとする。ライターの着火ダイヤルが壊れて回らなくなり、マッチで急場をしのぐ。
5番地蔵寺~6番安楽寺
5番から右折して撫養街道と平行する細道(旧道?)を歩くうちに、遍路地図に街道沿いにサンクスがあるのをみつけライターを買いに寄ることにする。行ってみたらセブンイレブンに変わっていた。杖を外の傘立に立ててポンチョと笠はそのまま入店したけれど、笠は脱ぐべきだったなと反省。店内ではぶつかって邪魔だし、雨のしずくが落ちる。まだ着脱が慣れないのでつい脱ぐのがおっくうになる。
元の細道にもどって先へ進む。道が入り組んでわかりにくいところがあり、交差点で遍路シールをさがしていたら手押し車押して後ろを歩いていたおばちゃんがまっすぐだよと教えてくれる。もう雨はほとんど降っていない。撫養街道の信号を渡った先で便意が襲ってきた。しかも徐々につのってくる。これはまずいパターンだ。緊急事態。何とかだましだまし歩く。町中ではあるけれど早朝なのでまだどの店も開いていない。頼みのガソリンスタンドも開店前だ。これは6番までがんばるしかないのか。最後の100 mは脂汗でダッシュ。山門をはいるとすぐ左手にりっぱなトイレが。まさに光り輝いて見えた。駆け込んで一息。さすがにシャワレットまではないけれど洋式できれい。お大師様ありがとうございますという気持ちになる。さっぱりしてから参拝。朝の参拝客がちらほらきている。
6番安楽寺~7番十楽寺
ここから7番十楽寺まではすぐだ。6番に似た中国風の門をくぐると右手に立派な建物(宿坊?)があり、納経所もその中にある。納経時に飴2個をお接待してもらった。すぐに食べる。排泄後なので快調だ。自販機で水を買う。雨がほとんど上がり、ポンチョを着て歩くと暑いので袖?の部分をまくってザックの肩紐にたくし込むとか前の部分はウエストポーチの内側に押し込むとか、いろいろ工夫できることがわかってくる。
7番十楽寺~8番熊谷寺
次の8番熊谷寺まではわりと長い。相前後して歩く遍路が何人か。大きなザックのメガネ青年、黄色ザックカバーの人。やがて野中にぽつんと古くて豪壮な山門が見えてくる。そこから境内までは少し距離がある。山門に比べて境内は新しく、規模が大きい。団体客と相前後する。
お参りした後で休んでいた黄色ザックの人と少し話をした。野宿で回ってる、昨日の夕立はひどかった、雨宿りしながら居眠りした、と。ああ、あの四阿の人だったのかもしれないな。ではお先にと9番へ。
8番熊谷寺~9番法輪寺
9番法輪寺への道は田園地帯をほぼ南下する。分岐が多いが要所要所に遍路シールが貼られているので地図がなくてもほとんど困らない。道路標識や電柱やガードレールなんかに貼ってある小さなシール。これにどれだけ助けられているか。この目印をたどって歩くゲームみたいだ。昼が近づいて腹が減ってきた。遍路地図によると9番手前にうどん屋があるらしいのでそこへ行こうと決める。雨がまたちょっとパラついてはすぐに止む。やがて田んぼにぽつんと瀟洒な洋館が。ここかなと思ったら美容院だった。うどん屋を見つけられないうちに9番へ着いてしまった。門前正面に小屋のような茶店がありうどんと書いてある。ここでいいか。まずはお参りしてから。雨はすっかり上がったのでポンチョを脱いでしまい、白衣を着る。
法輪寺本堂
大師堂
9番法輪寺~10番切幡寺
門前の茶店はくしまさんのページでよく接待の記事がでてくるというあの有名な店だ。中は狭くテーブルが2つだけ。どうぞどうぞとおばちゃんが隅のテーブルに案内して窓を開けて風を入れてくれる。気持ちいい。天かすうどんを注文。お接待ですといって売り物のきなこ餅を出してくれた。
食べていると大きいザックのおっさんがやって来た。おばちゃんに大窪寺から回ってきたとか話しているのできいてみると、通し打ちで結願後10番から逆にたどってここまで来たとのこと。横浜の人。今日がちょうど50日目、GWには宿がとれなくて高知のホテルに3泊した、これからどこ行くかな、とか。ぼくの予定についておばちゃんも加わってあれこれ話。へんろころがしは大変だよ、今日中に11番を打っておいて明日はできるだけ早くでたほうがいい、旅館吉野は11番に近いので便利でいいよ、食事もいいし、とのこと。
天かすうどん
切幡寺への道
街道から折れて細道を上る
10番までは街道(県道139号)をたどる。前方にうどんを食べているうちに抜かれた黄色ザック氏の姿が見えてきた。追いつくのもなんとなく気が引ける。というか前に人が歩いているとペースが乱される。ランニングでもそうだけど、離される場合は問題ないが、微妙にこちらが速くて追いつきそうなときが困る。まして歩きの場合は抜くにしても時間がかかるので間合いが難しい。そうこうしながらつかず離れず歩く。やがて街道と参道の交差点に到着。角に巡拝用品店がある。右折した参道は狭く上り坂になっている。左右に仏具店とか民宿とかが並んでいるが、民宿は営業していないところもあるようだ。巡拝用品を売る店は3店くらいあってけっこう大きくてきれい。1番の門前一番街以来こんな本格的なのははじめてだ。そのうち店がとぎれて鬱蒼とした林に分け入る。黄色ザック氏が休んでいたところを追い越す。左手に駐車場を過ぎると右手に333段の階段があらわれる。途中何か所かで分かれているが基本的にずっと石段が続いていて息が切れる。しかも雨上がりなのですべる。今回遍路歩き用に新調したシューズはすごく歩きよいのだが、ソールが濡れた石などで滑りやすいのが難点だ。杖を頼りになんとか上り切ると境内に着いた。
コンパクトな境内は団体客でにぎやかだ。声を合わせて読経しているので、こちらの読経のペースが乱されてやりにくい。右手の大師堂の左奥に優美な幡織観音像がある。それとは対照的に納経所のばあさんは終始無言で取りつくシマもない。ここまでの納経所の人はみんな丁寧で愛想よかったのに、こういう人もいるんだね。
10番切幡寺~11番藤井寺
帰り道、長い石段をこんどは下る。下りは楽だけど石が滑るので注意が必要だ。なのについ注意がおろそかになって最後の最後ですてんと尻餅をついてしまった。両手をついてなんとか滑落しないですんだが、おかげで尻と手が痛い。外傷がなかったのが不幸中の幸い。でも半ズボンが汚れてしまった。石段下の駐車場にあるトイレにはいり、ズボンを脱いでウェットティシュでできるだけ拭く。穴が開いたりしなくてよかった。白衣の裾も少し汚れたので拭いておく。応急処置してなんとか歩きを再開。下りは楽だと最後まで気を抜いてはいけない。これもお大師様のお諭しだと思おう。
参道を下り、来るときに折れた交差点をそのまま直進して狭い道をうねうね歩く。遍路シールが大活躍。地図はあってもこれがないととても正しい道をたどれない。やがて吉野川の堤防にぶつかり階段で上ると河原に鬱蒼と灌木が茂る分流の橋がある。沈下橋ではあるが四万十川のとは違って縁に低い石の欄干があるのでそれほど恐くはない。でも細いのに車がときおり通るので待避所とか縁に寄ってよけなければならない。前を行くザック青年が見えてきた。広い中州を越えて本流に架かる川島沈下橋を渡る。広大な吉野川の眺めは、前に脇町へ行ったときと同じで懐かしい。川島橋を渡り終わった先の休憩所でザック青年とその先にいた普段着の遍路おっさんに声をかけてやり過ごす。これで歩きやすくなった。しかし休めなかったので歩くしかない。
吉野川堤防への道
川島沈下橋にかかる
吉野川本流を渡る
吉野川を渡って川島の町中の細い道を行く。徳島線の踏切を渡り、途中の自販機でコーラを買って飲みながら歩く。コーラの甘さとカフェインで元気がでる。ウルトラマラソンのエードでのコーラ効果、あれだ。停まっている車の中から、その先の信号を右だよとおっさんが声をかけてくれる。尋ねてもいないのにみんな親切だ。山が迫ってきて最後は細いあぜ道から軒先をたどるようにして11番藤井寺前に到着した。
狭い境内に団体がきている。お参りを済ませて納経所へ行くとじいさんが納経帳の山と格闘中。みんな同じ青い納経帳。ああやれやれ待たされるのかと思ったら、出しなさい、といって横はいりさせてくれた。気難しそうなじいさんだったけど助かった。納経所もいろいろで、団体と個人を分けているところもあった。2人体制でやっているところや、銀行窓口みたいに3か所並んで同時に受け付けているところもあった。あれは合理的でいいサービスだ。そういうところは納経所自体も近代的で自動ドアのところすらあった。中に椅子と台があって荷物を整理したりできるようになっている。概して居住性がよさそうなのは7時から17時まで10時間詰めていなければならないから当然か。でも立派すぎるとちょっと違和感があるのも確か。かと思えばこういう昔ながらの1人の手作業のところもある。空いているときならこういう方が風情がある。
11番藤井寺~鴨島飯尾
11番から10分ほど道を下り家並みが始まったすぐ右手に新しい洋風のつくりの旅館吉野があった。16時過ぎ到着。はいるとすぐに受付カウンターがあって、おやじが受け付けてくれる。宿帳に記帳してルームキーをもらう。今日はぼくが最初だが、宿帳にはここ数日も数人ずつ客がある。さすがにここは地の利があるんだな。客室は2階に上がって7室。すぐ右手の208の四畳半があてがわれる。中に洗面所もついている。自分で杖を洗って安置する。隅に布団が畳んである。浴衣あり。電気ポットにお茶セットもある。まずは風呂だ。家庭用風だが昨日よりは少し広い。2つあって今日は片方のみ使っているようだった。使用中の札をかけてはいる。はいればもう極楽の二乗。タオルは脱衣所に積んであって勝手に使い使用後箱に入れるシステム。ソープ、シャンプー等必要なものは備えられている。上がって2階のトイレ前の冷蔵庫にセルフサービスの飲料と無料の麦茶があったので、ありがたく麦茶をいただく。うまい。部屋にもどって片付けているとお客があと2人来た。今夜は全部で3人。切幡寺の下りで転んで汚れた半ズボンをセッケンで部分洗い。ほとんどきれいになった。生地も乾きそうなので明日もこれにするかな。
食事ですよと18時に電話でよばれる。1階の食堂にいくと椅子テーブルが4つあり、奥の2つに3人分の食事が並べられて、すでに右奥に初老の白髪浴衣おやじ、左手前にスポーツウェア女性が着席していた。女性の斜め向かいの空席に座る。お兄さんが給仕してくれる。メニューは事前情報通りのトンカツだった。毎日そうなんかいな。サバ?焼き物もありまずまず豪華。白髪おやじはスーパードライ缶を開けているが、全然気にならない。話してみるとスポーツウェア女性は名古屋の人。昨日の夜行バスで来て今日10番からここへ、それ以前は昨年お参り済み、へんろころがしはきついとおどかされて1年遅れになった、明日はなべいわ荘泊まりで明後日帰る、とのこと。白髪おやじは、姫路に仕事があったのでそのついで、舞子からバスに乗って一昨日四国入りして1番の近くに泊まり、昨日は安楽寺の宿坊に泊まった、お勤めもして寺内案内もしてもらった、12人くらい泊まっていた、温泉がよかった、明日はやはりなべいわ荘で明後日帰る、とのこと。
食堂給仕のお兄さんを加えて雑談。5月までは人が多いけれど6-8月は少ないそうで、空いているけれど休業中の宿もある。12番までは6時間。途中に水場は柳水庵しかない。トイレもそこしかない。といわれて水を買っておくのを忘れたのに気づく。買うとこありますかときいたら、11番の駐車場の自販機が最後だそう。うちの二階にもありますけど、といわれたのであとでいろはすを1本ゲットしておくことにする。明日の食料もパンくらい買っておくつもりだったのも忘れていた。非常食以外なにもない。明日の昼食いりますかと聞かれたので3人全員挙手でおにぎりをつくってもらうことになった。マムシはいますかねと聞いたら、そろそろ出るかもしれない、蛇は結構いるけれど見る人と見ない人がいるとか。
食堂のテレビで関東地方の大雨のニュースをやっている。徳島地方の天気予報はくもり時々雨、降水確率午前40%午後60%とのことで微妙だ。事前の予報では今日くらいで雨が収まって明日明後日は回復するはずだったのにな。なんとか降らないうちに登りきりたい。そうこうしながら2膳飯を完食。苦手なラッキョウも食べた。21時過ぎには床に入ったけれどなんか寝つかれず眠ったのは22時過ぎ。
3.2014年6月7日(土) 鴨島飯尾~12番焼山寺~神山温泉
コースタイム
出発地,出発時刻,便名,到着時刻,到着地(歩行距離, 所要時間),滞在時間
鴨島飯尾,709,,719,11番藤井寺(0.7 km, 0:10)
11番,719,,812,長戸庵(3.4 km, 0:53),0:06
長戸庵,818,,903,柳水庵(3.3 km, 0:45),0:11
柳水庵,914,,948,浄蓮庵(2.3 km, 0:34),0:14
浄蓮庵,1002,,1115,12番焼山寺(4.4 km, 1:13),1:29
12番,1244,,1312,杖杉庵(1.9 km, 0:28),0:06
杖杉庵,1318,,1504,神山温泉(9.0 km, 1:46)
鴨島飯尾~11番藤井寺
前日と同じに5:40起き。6:00に同じ顔ぶれで朝食。雨は降ってないどころか薄日が差すいきおいで明るい。昨夜も降った形跡はない。ほんとにこれから降るのだろうか。暑そうではあるけれど山道なので用心して長ズボンにする。朝のトイレはまた出ない。昨日のことがあるので不安だがいざとなったら藪の中と覚悟を決める。こればかりは考えても仕方ない。7:05に出発。スポーツウェア女性はすでに出た後。白髪おやじはまだみたいだ。会計は6950円。一泊二食6500円に弁当300円、水150円という感じかな。
朝食
11番まで昨日の道をもどる。12番への登り口がわからなかったので、門前のバラックにいたおじさんに尋ねる。境内の本堂の横に登り口があるとていねいに教えてくれる。そうか中なのか。確かに入ってみると本堂の脇に山道の入り口があり表示があった。境内はすでに参拝客がちらほら。昨日のメガネザック青年らしき人が身支度している。歩いて登りそうな人は他に見当たらない。
11番藤井寺~長戸庵
7:19いよいよへんろころがしへ出発。地元の人が朝の運動に途中まで登っている。みんな元気だな。そういえば今日は土曜日だ。すぐにどんどん急な坂道になり息が上がる。少し先でスポーツウェア女性に追いついて挨拶。追い越して少し行くと右手が開けて吉野川流域の遠景を展望できる。地図にある端山展望台が最初のポイントなのだが、後からこれがそうだったのかと気付いた。意外と近かった感じ。
焼山寺への登り口
端山展望台
さらに進む。後ろからさわさわと音がするので振り向くとTシャツ短パンのランナーが走ってくる。びっくりして道をよける。こんなところにトレイルランナーとは。すぐにまた女性が来た。走って登るんですかと声をかける。だらだら坂からきつい登りを越えて霧の中の長戸庵に到着。ここまで1時間ほどかかっている。行程の1/4だからまずまずのペースだ。
お参りして納札と賽銭をあげる。休んでいると後から2人上ってきた。1人は地元徳島のおやじで、この前後はすでに歩いたのでここだけ残っていた、今日は13番まで行く、というから驚く。北海道からというとよく来てくれましたと喜んでいた。もう1人軽装のおやじはさっきのトレイルランナーの連れで、若い者においていかれたらしい。
長戸庵~柳水庵
お先にと出発。ここからは尾根筋となってきつい坂は少なく歩きやすい。鬱蒼とした杉林の中で気持ち良い。天気もどうやらもちそうだし。腹具合も今のところ大丈夫。1時間ほど歩いて少し下った先に建物の影が見えてきて、タイツ姿の青年が歩いてゆく。柳水庵に到着。
尾根筋を歩く
遠景は霧の中
ここは水の豊富なところで筧と柄杓が2か所のほかに水道蛇口もあった。建物は無人で、荒れてはいるがしっかりしている。電話は撤去しましたという表示。ここでも納札と賽銭。先の方に別棟のトイレあり。その先少し下ったところに遍路小屋があって、のぞいてみるとなんと布団が何組かおいてある。これなら野宿氏は十分泊まれそうだ。腕時計代わりのGarmin 310XTの表示を変えて標高が出るようにする。あまり正確ではないが、行程の目安にはなるだろう。少し休んでタイツ青年より先に出る。
柳水庵~浄蓮庵
すぐに車道に出て渡った先に歩き道が続いている。ここから何か所か車道と交差するところや怪しげな分岐があるが、案内表示がきちんとしているので道を間違えるおそれはない。さてまだまだ難所はこれからで、これまでは小手調べだったのだと思い知ることになる。道は徐々に険しくなり、最後は急斜面にジグザグを切る急坂が続く。流れ落ちる汗を拭いてばかり。メガネが邪魔なのではずして胸元に挿す。下りは足元をよく見ないと危ないのでそうはいかないけれど。上りは多少見えにくくても速度が遅いしはずしても不自由はない。急坂に呻吟していると突然右手にコンクリートの階段があらわれ、見上げると大きなお大師様がいる。この舞台装置の劇的なこと。本当にびっくりした。階段を登りきったところが浄蓮庵いわゆる一本杉庵でお大師様の後ろに杉の大木が聳えている。ここが今日の最高標高点。よくも登ってきた。イスに腰を下ろして大休止。水を飲んで、スニッカーズを食べる。やれやれきつかった。しかし見事な大杉だな。納札と賽銭。そろそろ行こうかなというころに柳水庵で抜いたタイツ青年が現れる。お疲れさま。今日はどこまでと聞いたら大日寺まで行きたかったけど、時間はともかく足がもたないと。そうだろうよその荷物では。さっきの徳島おやじとはわけが違う。お先にと出発する。
浄蓮庵~12番焼山寺
せっかく上ったのに、ここからは一旦下る。というかどんどん下る。下りはまた注意が必要だ。とにかく岩が露出しているところは滑る。この山に特徴的な青っぽい岩がまた滑りやすく、杖で支えて慎重に下りないと危ない。何度か転びそうになったが踏ん張る。杖のありがたみをひしひしと感じる。左右知集落まで下り切る。家が何軒かあるけれど全然人気がない。人が住んでいるのだろうか。
沢を渡ってから最後の上りにかかる。これがまたえらい急坂で、浄蓮庵手前とどっこいどっこいか時間的にはこっちの方が長いような。とにかく急坂の連続で休む場所もない。しかも青緑色の岩盤が露出しているところが多く滑る。慎重に慎重に延々と続くかに思われた急登を登りきると少し開けた広い道に出た。そこからは車も通れるゆるやかな勾配で格段に歩きやすくなった。310XTの標高表示も600 mを越えている。もうお寺が近いな。やがて駐車場からの道と合流して舗装道路になる。車できた人が三々五々行きかう。こんな汗だくのリュックおやじは他にいない。前から例のトレイルランナー3人が戻ってくるのとすれ違う。お疲れさまと声をかける。あの道を走ってもどるとは信じられない。後で徳島おやじの話によると上り2時間だそう。なおさら信じられん。
突然道しるべの並び立つ三叉路に出る。標柱の直進方向は13番大日寺を示している。一瞬混乱する。来た方は藤井寺。右手は山門に続く石段になっている。そうか着いたのだ。感動。上り口から4時間を少し切るタイムだ。よくぞ歩いた。えらい。
やっと車道に出る
焼山寺入口の道標
焼山寺への石段
階段を上って山門をくぐり境内へ。山上で小じんまりとしている。左手に納経所と併設された休憩所。さらに数段上ると正面に本堂、右手に大師堂がある。狭い境内は参拝客でにぎわっている。もちろんみんな車で来た人だ。汗びっしょりで空腹だけどまずはお参り。般若心経をいつもより朗々と読む。気持ちいい。感動が身を包む。納経所に向かうところでタイツ青年到着。手を振って、お疲れさま、着きましたね、と声をかける。着きました、と笑顔がかえってくる。この連帯感。あの苦行を共に経験したものでないとわからない。納経所では若い坊さんが何人か手分けして筆を運んでいる。何で来ましたかと尋ねられる。こんなのは初めてだ。これは駐車料金徴収のために記録をとっているのだと誰かのブログに書いてあった。歩いてきたというと。ごくろうさまどれくらいかかりましたか。4時間くらいです。それは早いですね、というような会話。そこの休憩所でご自由にお休みくださいと。物腰はていねい。
本堂前にもどると、タイツ青年と到着した徳島おやじが話している。自販機でコーラを買って飲む。こういうときのコーラはうまい。話に加わり、ついでに写真を撮り合う。タイツ青年は長野の人で通し打ちするつもりとか。徳島おやじには速いですねぇ追いつかなかったと言われたが、それをいうならみんな相前後して到着したので速いのはほぼ同じだ。他に歩きらしい人はまわりに皆無なので、朝11番から上ってきたのはおそらく我々が一番乗りなのでは。
お昼を食べようといったん休憩所内にはいってみたけれど、外の方が気持ちよさそうだったので見晴らしのいいベンチで吉野でつくってもらったおにぎりを食べる。梅干しと昆布佃煮、たくあん2切れ。おにぎりに塩味がないのがちょっと残念。天気はまずまずで薄日が差すとじりじり肌に痛い。汗だくでシャツもズボンの尻回りもぐっしょり。裾は泥だらけ。これならTシャツに短パンにするのだったな。山上でずいぶんのんびりしているのに時刻はまだ13時前だ。この分では宿に早く着きすぎてしまう。せめて15時は回らないとな。ということでぐずぐず時間をつぶし、ぼちぼちと出かけることに。徳島おやじは先に行ってしまった。タイツ青年はまだ行程を考えている。13番まで行くのは無理とするとどこに泊まるかはチョイスがそうないんだけど悩ましいところだ。ぼくもこの時間からなら神山温泉よりもう少し先へ行けそうだけれどその先に宿がない。違う道をとって阿野の植村旅館泊まりにすれば明日の行程が楽になるけれど、ここから山を下りた後でまたひとつ峠を越えなければならない。脚はもつ気はするけれどこのうえまた山登りはあまり気乗りしない。それより遠回りでも温泉の魅力が大きすぎる。今夜の宿をキャンセルして植村へとちらと考えたが即却下。予定通り早着にしても神山温泉に泊まることにする。
12番焼山寺~神山温泉
山門を出て石段を下りた突き当りを右折して13番大日寺方向へ。車道とは別の歩き道があり遍路シールがあるので迷わない。下りは楽だけど足元がすべるのでそれだけは注意。けっこう急なところもある。ところで出発してすぐに少しずつ便意が。忘れてた。ここまで上りはまったく兆候がなかったけど、昼飯食べた刺激が出てきたようだ。う~ん、焼山寺で済ませてくるべきだったか、と思うがもう遅い。この先のトイレってどこだっけ。たしか鍋岩まで下りればあったようなと考えをめぐらす。しかしここまで順調だったのにな。しまったなと思いながらも歩いていくと、車道に出て何やら銅像が立っている。あれは衛門三郎、ああ杖杉庵ではないか。そうだ 途中にこれがあったんだ。開けたところにお堂があって杉の大木がある。傍らにトイレもある。やれやれ助かった。まさにおあつらえ向きの場所だった。お大師様ありがとうございます。荷物を下ろしてありがたく利用させてもらった。ついでに納札と賽銭。
そこからさらに山道を下ってまた車道に出たところが鍋岩集落で、広いバスの休み場がありきれいなトイレもある。団体バスがいくつか止まっていてにぎわっている。車でくるとここが上り口だ。すぐ阿野方面への玉ヶ峠越えの細い山道を左に分け、あとは川沿いに車道をどんどん歩く。焼山寺へ行き来する車が結構通る。道幅いっぱいに大型バスも来る。ところどころ道幅の狭いところがあり、対向車感知信号があったりする。いかにも四国の山間道路という感じだ。
鍋岩の駐車場
細い車道と対向車感知信号
鮎喰川を渡る
うねうねと車道を下って鮎喰川本流を渡り神山町中心部へ。橋のたもとでおばちゃんが3人、川になにか投げている。聞くと鯉がいるとのこと。エサやってるんですか。いやエサなんかやらん、石投げてる、と。国道438号線を左折。さすがに歩き疲れてきた。しかし神山温泉は市街地を通り越してまだ3キロくらいある。がんばって歩く。国道をそれて旧道にはいる。時折りすれ違う人にこんにちはと声をかけながら歩く。ふだんのぼくには考えられない。お遍路姿なのでみんなきちんと返事してくれる。
神山温泉へ
温泉施設
15時を少し過ぎたころ、右折して正面にりっぱな温泉施設があり。その左手にあすかの看板があった。なんか前日、前々日の宿の小ぎれいだったのと比べると、薄汚れたいかにも寂れた感じの建物だ。まあとりあえずは着いた。
ベルを押してくださいと書いてあるので押すとおやじが出てきて、受付してくれた。宿帳は当然一番乗り。部屋のカギと温泉利用券をくれる。部屋はすぐ左手の101室。6畳間だけど畳が日に焼けている。お茶セットは一応あるけど単なる保温ポット。急須はアルミ薬缶。浴衣はついている。ハンガーがあるけれど濡れたものは干すなと注意書きがある。とりあえず着替える。ズボンはぐっしょり。干すなといったって干さねばならぬ。しかし厚手なので乾くだろうか。裾の泥汚れは洗面所へ行って石鹸で部分洗いするときれいになった。
民宿あすか
室内
軽装になって着替えとウェストバッグだけもって何はともあれ温泉へ。靴箱に靴を入れてその鍵をカウンターでロッカーキーと交換するシステム。中はそれほど広くないが土曜日午後のわりには空いている。ザブンと浸かる。極楽というしかない。ああなんて幸せ。ほんと温泉いいな。民宿の風呂でもいいけれどやはり手足を存分に伸ばせるこの解放感。いつまでいてもいい。時間はたっぷりある。極楽極楽。半露天風呂もあり浸かったり上がってベンチで涼んだり。ぼーっと考えごと。まさに至福のひとときだ。いつまでも浸かっているわけにもいかないので、バブルバスなど一通りはいって体を洗って外へ出る。
着替えてさっぱりして二階の休憩所大広間へ。テレビで福島の全日本陸上をやっている。人はまばらで空いている。座布団を並べて横になる。これまた至福。自販機でアイスを買って、ジュース買って、お茶買ってと、ビールは飲めないけれど全然問題なし。日記手帳もってくればここで書けたのに惜しいことした。まあそのおかげで何もせずのんびりできたからいいか。結局、2時間くらい時間をつぶして宿へもどる。それでもまだ17時過ぎだ。
18時過ぎに夕食の連絡。食事は受付横の和室に並べられている。いってみるとぼくの他には中年夫婦がひと組。宇和島の人で近在はもう回っているので車で残りの徳島高知と別格をまわっているそうだ。今朝宇和島を出て1番からここまで来たというからびっくり。さすが車というか四国は狭い。宿のおかみも加わっていろいろ談義。このおかみさんのしゃべるしゃべる。いろいろ詳しいのはわかるけど少し自分を出しすぎ。明日の行程の話になって、ぼくが17番まで行って15時のバスで徳島を出るといったら、無理無理と一刀両断。そこでびっくりしたのがうちは朝食は6時半だという。今までずっと6時だったのでそのつもりでいた。7時に出るつもりといったら6時半に食べて出られるでしょうという。う~ん。なんとか少しでも早くしてあげるからといわれて引き下がる。あとでもう一組到着したみたいだがぎりぎりの予約で夕食はなしの人のようだった。
夕食
部屋にもどって明日のコースの検討をする。ここから13番までは鮎喰川沿いの県道20号線、鬼籠野谷川沿いの21号線、大桜トンネル越えの3本の選択肢がある。大桜越えは最短コースだが途中にトイレもなにもない。鮎喰川沿いコースは長いけれど休憩所とかがある。どうするかな。時間的には川沿いでも間に合いそうではあるが。しかしトイレがあったって都合いい場所にあるわけではないから、かえって人家のあるルートよりも山中の方が非常時に用をたしやすいとも考えられる。朝トイレを済ませて出発できれば何の苦労もないのだが、こういうところで余分に神経を使わされる。大桜トンネル越えは地図を見ると何もない山中みたいなのでこっちが安心かもという結論になった。部屋にいろいろ干して明日まで乾きますようにと寝る。しかし21時過ぎに布団しいて寝たけれどやはり眠れない。眠りについたのは前夜より遅く結局23時過ぎだったろう。
4.2014年6月8日(日) 神山温泉~13番大日寺~17番井戸寺~徳島駅=神戸=札幌
コースタイム
出発地,出発時刻,便名,到着時刻,到着地(歩行距離, 所要時間),滞在時間
神山温泉,703,,943,13番大日寺(15.3 km, 2:40),0:17
13番,1000,,1025,14番常楽寺(2.5 km, 0:25),0:18
14番,1043,,1052,15番国分寺(1.0 km, 0:09),0:21
15番,1113,,1136,16番観音寺(1.7 km, 0:23),0:19
16番,1155,,1226,17番井戸寺(3.0 km, 0:31),0:33
17番,1259,,1413,徳島駅(7.0 km, 1:14)
徳島駅,1500,阿波EXP74,1648,三宮ターミナル
三宮,1705,エアポートリムジン,1745,大阪空港
伊丹,1900,ANA779,2050,千歳
神山温泉~13番大日寺
朝5時ころに目覚め、5時半過ぎに起きる。干したものはだいたい乾いている。ズボンは生乾きだがしかたがない。6:20に朝食の電話。すぐに行って10分で食べ終わる。昨日の車夫婦もいっしょ。あと2人分並んでいたけどまだ来なかった。荷造りしてぐずぐずするが朝のトイレは全然兆候がないので7時に出る。
朝食
外は明るく薄曇り。坦々と国道を歩く。朝なのでいいペースだ。途中の道路沿いに神山のかかし人形が並んでいる。こういうのどこかにもあったな。結構不気味だ。あっという間に鬼籠野につく。自販機で水を買う。ここで国道から左折する。どこからか現れたジョギングのおっさんに抜かれる。人家もないところなのにどこへ行くんだろう。やがて突如目の前にトンネルが出現。あれれと思ったが、地図をよくみると県道付け替えのトンネルとわかる。大桜越えへはその手前を右折するはずなのだが分岐が見当たらない。右側の川の対岸には道が見える。あっちだよな。分岐を通り過ぎちゃったのかなと戻りかける。でもへんだなとトンネルの手前をよく見ると交差点らしくも見えるのでそっちへ進んでみるとちゃんと右折する道があった。このあたり新旧道路が交錯して見通しが悪くわかりにくい。なんといっても遍路シールがない。主ルートをはずれるととたんに標識が少ないのでちゃんと地図を読まねばならない。そうなるとへんろみち保存会の地図はいまひとつ正確さに欠けるので注意が必要だ。
神山のかかし人形
大桜トンネルへ上ってゆく
大桜トンネル
とりあえず正しい道へ右折。舗装はされているけれどひなびた細い道となり左右に山間の農家が点在する。畑というよりは果樹みたいだなんの木だろう。いずれにせよ地図で想像してたのとは違って無人の山中というわけではない。北海道ではなく四国なんだからそういえばそうか。道幅は広くないが時折農作業の軽トラがくるくらいなので歩きやすい。上って下ってまた上る。といっても昨日にくらべれば楽なものだ。やがて大桜トンネルがある。長さは130 mだからすぐ出口が見えるし真っ暗ということもない。広めの一車線あるのでそれほど圧迫感はない。一応マグライトを点灯して歩くが、無灯でも足元はみえる。前から軽トラ、後ろから小型車が来たが、ライトのせいか徐行して通り過ぎてくれた。大型ダンプとかなら危ないところだがそんなのが来ることはまれだろう。
トンネルを抜けて下りになる。周囲が開けてきたあたりに左手に遍路道分岐があるはずなんだけど、わからなかった。遍路シールか道標がないと脇道へ踏み入る勇気はないし、そもそも見つけられない。しかたなく県道21号線の分岐まで直進することにする。少し手前に大日寺近道という表示のある小道へ左折、家並みの間をショートカットして往還に突き当たった。この県道は狭いのに車が多い。片側一車線しかないうえに工事していたりして歩きにくい。地図を確認して左折して少し行くと右手に13番大日寺が突然あらわれた。
往還に面して山門があり写真を撮ろうにも車の切れ間を見計らって向かい側に渡って撮らねばならない。ともあれ15キロを2時間40分で着いた。まずまずのペースだ。ここは境内も狭い。狭いうえに団体客がいて込み合っている。お参りしてすぐに納経所へ。おっさんとおばさんが二人掛かりで納経帳の山と格闘している。掛け軸もたくさんあるので大変そうだ。参ったなあと思ってたら、うまいことにおばさんの方があと3冊という区切だったので、少し待つだけで書いてもらえた。おっさんの方はこれ重ね印していいのとかツアコンにきいている。ああしてください、とか。団体には複数回目の人もいるのだろう。ツアコンはもう顔見知りのようだ、まあそうか。こうなると作業だな。
13番大日寺~14番常楽寺
このあたりはまた主経路なので遍路シールがところどころにある。13番を出てすぐに左折、細い野中の道を行く。橋を渡ると、保育園があって子供が遊んでいる。お寺がやっている常楽園だ。その先すぐ左手が14番の入口で境内中央がむきだしの岩盤でその上にお寺がある。13番でうるさかった団体はまだ来ていないので人は少なく静か。納経して次の15番へ。
14番常楽寺~15番国分寺
ここは間隔が短く次の15番はすぐだ。家並みが途切れて田園の15番に到着。右手の開けた中に山門。周囲がなにもないので境内も明るく広々と感じる。大師堂は再建したばかりみたいで新しい。その納札箱に手を入れてかき回して探しているおっさん。なんちゅう罰あたりな。ほんとにこんな輩がいるんだな。右手の奥まった納経所によって戻る。晴れてきて暑い。
15番国分寺~16番観音寺
次の16番観音寺までは開けた国道192号線沿いを行く。喉が渇いたのでポツンとあった自販機でコーラを買って飲みながら歩く。広い分離帯つきの道路を渡って府中の町中にはいり、右へ折れるとすぐ鼻の先に山門があらわれる。境内は狭くベンチすらない。手水場の横に荷物をおいてお参り。大師堂からもどるときにアクシデントが。ウェストバッグのファスナーが開いていたのに気づかずになぜか前傾してスマホが滑り出てパカンと石畳に前面から落下。あ、やばい。拾い上げてみると無残にも前面ガラスにひびが入り、下側のタッチボタン部分は左右とも割れて基盤が見えている。あー、やっちゃった。
ボタンを押すと画面は出るし動作はちゃんとするのが不幸中の幸い、なんとか写真も撮れる。基盤が見えているバックボタンとメニューボタンもそのあたりをタッチすれば機能はする。なので気をつけて使えば使える。だけど薄いガラスが割れっぱなしなので手を切りそうでこわい。あーあ。腫れ物に触るようにジッパーパックに収納して持ち歩くことにする。しかし不注意だったな。このスマホ滑るからな。最初じゃなくてあと少しというところでよかった。最後まで気を抜くなというこれも教えか。しかし高い授業料だ。
16番観音寺~17番井戸寺
しばし呆然として、後悔しながら歩くと遍路シールを見落としそう。いけないいけない。済んだことにとらわれてはいけない。それが次の失敗につながりかねない。気分を切り替えないと。府中の町中を歩き徳島線を渡って北上、ややしばらく歩くと17番が見えてきた。
ここは割合ゆったりした境内が明るく広がる。無事予定の17番を打ち終えたのでとりあえず満足。納経所はマイクロバスの団体に占拠されている。住職と運転手おやじが掛け合いしながら記帳している。昼飯はどこで食べるのかとか。無駄話しながらも手は動いている。よく手順を間違えないものだ。どこでもそうだがツアコンは絶対歩き遍路にお先にどうぞと譲ってはくれない。待たせても申し訳ありませんとも言わない。それほどの冊数ではなかったので10分待ちくらいで記帳してもらえた。後ろにも個人客が並んでいた。そういえば今日は13番からここまでまったく歩き遍路の姿を見なかった。折よく便意を催したのでここのトイレで済ませる。ここまで無事でよかった。
17番井戸寺~徳島駅
さてここからどうするか。予定より早く着いたので、府中駅にもどってJRに乗るには早すぎる。少し先の蔵本駅まで歩いておくことにするかな。
寺を出て斜めの街道へ出るところでちょっと回り道。車の行きかう県道30号線に出るともう都市郊外のありふれた風景になる。遍路姿で歩くのが異質な感じ。そんな人はまわりにもちろんいない。田舎道だと溶け込んでしまうけれど都会では完全に浮いている。まあじろじろ見られることはないけれどなんか少し落ち着かない。鮎喰川を渡り、地図どおりに右折して細道を蔵本駅へ。折から徳島行き列車がきた。あれは予定より1本早いやつだ。考えてみるとあれに乗れば三宮行きの1本早い14時のバスに間に合ったな。蔵本では間に合わないけれど、気がついていれば府中から乗ることはできた。まあしかたがない。このあたりまで来たらもういっそのこと徳島駅まで歩いてしまおうという気になる。その方が次回ずっと楽だ。あと3キロくらいだし。ただし昼を過ぎて空腹のうえにさすがに疲れてきた。距離からいうと今日が今回最長だろう。徳島市内を歩いて日曜でにぎわう駅前に14時過ぎに到着。やった。
徳島駅到着
徳島駅=神戸=札幌
予定の15時より早い14時半というバスもあったよな、それに変更できるかなと思って歩いたが、駅前のJRバス案内所の時刻表は15時の前は14時。徳島バスの案内所は別の場所にあってそっちは行ってみなかった。もしそっちに14時半があっても他社便への変更はできそうもない。共同運行にして窓口も統一すればいいのに。乗り場も別だし利用者不在だ。
駅舎にはいりまずはトイレで杖を洗う。待合室はなくオープンスペースにいくつかイスがあるだけ。仕方がないのでそこで荷物をごそごそ。杖を袋にしまい、着替えを出してまたトイレへ。白衣とTシャツを脱いでランニングと長袖シャツ。短パンを脱いでまだ少し湿っている長ズボンに着替える。多少気持ちが悪いけれどやむを得ない。でもさっぱりはした。
さて少し時間があるからうどんでも食べようかなと思うが駅内にそんなものはない。ちゃんとした店をさがしてはいるほど時間もないしな。地下へ下りてみたけれど飲食店はロッテリアしかない。しかたがないのでそこへ。チーズバーガーとアイスコーヒーの遅い昼食。甘いアイスコーヒーのうまいこと。しかし杖と笠が荷物になる。とくに笠。かぶると感じないが持って歩くと大きくてとても邪魔。手がふさがるし人にぶつかる。難儀なことだ。食べ終わって乗り場へ行くとバスが着いていて乗車がはじまっていた。驚いたことにほとんど満席。行きとは大違いだ。日曜午後の便のせいだろうか。隣に人がいると乗りにくい。しかもこの大荷物。リュックと杖と笠をもって狭い通路を歩き。通路側に座っている人を乗り越えて窓側になんとか収まる。膝の上にリュックと笠で身動きできない。途中でリュックを足元に下ろすと少し楽になった。だけど大きな笠がひざにある。荷物庫に入れてもらえばよかったんだよなと思ったけれど後の祭り。
まあ、でもバスに座っているだけで運ばれていくのはなんて楽なんだろう。発車して次の徳島大学前、松茂でも人が乗ってくる。ほんとに満員になった。帰りは途中休憩もなく本州へ。高速が込んでいるので北神戸線へ迂回しますと案内。渋滞で遅れたらいやだな。スマホ出す気もしないのでどこを通っているのかわからない。最後に超長いトンネルを抜けるとすぐに三宮で、定時に着いた。谷上の方から新神戸へ出てきたようだ。降りる人は多いがバスはここが終点じゃないので通路側のおやじは動かない。なのでまた大荷物に苦心して外へ出る。やれやれ。
こんどはリムジンバス乗り場へ移動。地上を歩く道がわからなかったので一旦二階デッキに上がって下りる。日曜の夕方ですごい人だ。歩きにくい。笠が邪魔。大阪空港行きはすでに長蛇の列。やれやれ。券売機でチケットを買って列に並ぶ。ほどなくバスが来て乗り込む。また荷物に囲まれる。発車するとただいまの時間は60分かかりますとの予告。ダイヤ上は40分なのに。魚崎、深江あたりまでが渋滞で遅い。そこを過ぎて名神にはいると流れがよくなって結局10分遅れくらいで伊丹に着いた。
後方のANAへ。一階にはいるとすぐにチェックインカウンターで自動チェックインしたあと手荷物の列に並ぶ。待ち合わせていたF氏が来て少し立ち話。X線検査してライターありませんかと聞かれるのであるというと出せとのこと。持ち込みは可だけど預けるのは不可らしい。マッチもあるというとライターとマッチどちらか一個だという。そうなのか行きには両方もって乗っちゃった。マッチはいらないので処分してもらう。X線では充電ケーブルみたいなのと一緒に携帯のバッテリがはいってませんかといわれる。あります。出してください。バッテリも機内持込みのみ可なのだという。機内持ち込みできないものを預けるのが手荷物なのに、逆に手荷物に預けられなくて機内持ち込みしかできない物もあるからややこしい。しかし携帯の予備バッテリは着替えの緑バッグの中だよ。横の整理台に移動して監視されながら引っ張り出す。ビニール袋の充電セットごと取り出してウェストバッグへ。これでやっとカウンターへ。杖は立派そうな錦糸の袋入りなので壊れるといけないからといって大きな細長い箱に収納される。笠は、これも預けますかといわれる。直径46センチは機内持ち込み基準を越えているんだけど。これは大きなビニール袋に入れられる。お手数かけます。リュックも預けてしまって身軽になる。
二階搭乗口に上がって、フードコートでF氏とビールで乾杯。4日ぶりだ。少し話して外へ出ると手荷物検査がすごい列。日曜夕方だから込んでいる。おとなしく並んでいたが、途中で19時発千歳行きのお客様とよばれ先に通してもらう。はいるとすぐに搭乗口への通路。トイレによる時間はあって無事搭乗。荷物がないのでなんなく窓際に収まる。満席。機内ではずっとメモ書き。となりの女の子がCellのコピーを読んでいる。どこかの院生らしい。10分遅れくらいで到着。千歳は雨模様。手荷物があるのでゆっくりと降りる。一番に杖の箱がまわってくる。取ると地上係員がお開けしますと箱から出してくれる。箱の中でベルトでしっかり固定されていた。笠がまわってくる。まったく異彩を放っている。リュックも引きとって。無事外へ出る。