とうとう五輪分子が完成しました。鎖のように環がからみあった分子、catenane の話題は以前にも登場しましたが、環が5個連なった [5]catenane がこの分野の第一人者である英バーミンガム大の Stoddart らによって今回初めて合成され、「olympiadane」と命名されました。
さて、実際の分子ですが、これがなかなか難物でして、こんなものでおわかり でしょうか(^^;;。
つくり方は簡単で、B環とD環(同じもの)をまずつくっておき、それをC環の原料でつなぎあわせて、B−C−D部分を組みます。このときうまく鎖になるのは、B(D)環構造の中の 1,5-dialkoxynaphthalene 部分(−O−□−O−)が電子過剰型であり、対するC環構造の中の 4,4'-bipyridinium 部分(−■−)が電子不足型なので、うまくサンドイッチ(□■□)のように配位して分子構造が固定されるためです。
次に、できたB−C−Dに対して、さらにA(E)環の原料をはたらかせて閉環させると、今度は上とは逆の形のサンドイッチ(■□■)型に配位して、めでたく五輪が完成します。ただし、配位力による反応分子の固定は選択性があまりよくなく、収率はいまひとつで、B+C+D→BCDが6%、A+BCD+E→ABCDEが5%となっています。まあこの場合、一段階目は二つの環を一度につなぎあわせる反応であり、二段階目は両端の環にそれぞれ新たな環をつなぐ反応ということを考えれば、低収率もやむを得ないところでしょう。なんにせよよく作ったものです。
ところで、この分子は本当に五輪マークの形をしているのでしょうか? 実際の分子は、70℃でのNMRの結果、D2h対称(一直線の直鎖でそれぞれの環が直交)であることがわかりました。それ以下の温度では環の運動が抑制されていくつかのコンホーマーの平衡混合物で存在するようです。いずれにしても、W字型にはなってないわけですね。まあ当然でしょうが。
D. B. Amabilino et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 33, 1286 (1994).