つまり、全体の構造がこんなふうになっているんです。かご型のビシクロ環を2つからみあわせた形をしています。赤いユニットと青いユニットは全く同じ構造ですが、ユニットには上下の区別があり、tail-to-tail型にからまっています。
ユニットのheadの方には(どちらがheadでもtailでもいいんですが(^^;)、3ヶ所丸い玉がありますが、これがミソで、ここには白金やパラジウムがはいっています。そうです、これは第14話の「プラチナのネックレス」と同じ考え方で、Pt-N結合形成の可逆性をうまく使って分子を組み上げるわけです。
分子全体の構造を描くと、ユニット同士が重なり合って何がなんだかわからなくなりそうなので、ユニットひとつの構造を描いてみました。
これだけでも相当複雑に見えますが、よく見るとシンプルで美しい構造であることに気づかれるでしょう。上下の三叉部分はいずれもトリアジン環で、その2,4,6位に片方(tail側)はベンゼン環、他方(head側)はピリジン環の4位が結合しています。tailの方のベンゼン環のパラ位はさらにメチレンを介してピリジン環の4位に結合しています。このhead側の三方向のピリジン環とtail側の三方向のピリジン環の窒素同士が3個の白金で結ばれています。この白金にはエチレンジアミンが配位しています。
さて、立体からまり分子の合成はとても簡単で、白金エチレンジアミン錯体の硝酸塩とトリピリジルトリアジンとトリス(ピリジルメチルフェニル)トリアジンを3:1:1で混合するだけです。白金によってピリジンの窒素が架橋されたいろいろな分子種の平衡混合物になりそうですが、100℃で3日間加熱すると、熱力学的に安定な分子構造へと収束します。なんと、立体からまり分子の収率は65%でした。冷却すればPt-N結合が切れなくなるので、もうほどけません。X線結晶解析で見事にからまった構造が確認されました。
ref. M. Fujita et al., Nature, 400, 52 (1999)