このちょうちん、よく見るとキラルな形をしているのがわかります。ベンゼン環をつなぐ枝が上から下に向かって左へ60°ずつねじれています。これも不斉炭素をもたないキラル分子の例です。
合成法は、やはり熱脱離反応によるp-キシリレン中間体を経る方法で、途中の分子間カップリング反応でのユニットの組み合わせによって、三層、四層、五層のちょうちんになります。できあがったちょうちんのキラリティは出発物質にキラルなパラシクロファン誘導体を用いていることによっています。
ところで、このカップリング反応では片方のユニットにラセミ体を反応させても生成物は片方にねじれたちょうちんになることが知られています。これはねじれを打ち消す方向の組み合わせでは、向かい合った枝の間の反発が生じるためです。
「分子美学」の提唱者、元阪大工学部の中崎昌雄先生の作です。
ref. M.Nakazaki, K.Yamamoto, S.Tanaka and H.Kametani, J. Org. Chem., 1977, 42, 287.