う〜む、納得できんという人(私もそうでした(笑))は、アダマンタンから順番にユニットを一つずつ増やしていってみるとよくわかります。赤い部分が次々に増えていくアダマンタンユニットです。なるほど、うまいぐあいにできているものです。
余談ながら、アダマンタン同族体は一般式C4n+6H4n+12であらわされます。nが含まれるアダマンタンユニットの数に相当します。アダマンタン(n=1, C10H16)、ジアマンタン(n=2, C14H20)、トリアマンタン(n=3, C18H24)までは各1種、テトラマンタン(n=4, C22H28)は1対の鏡像異性体を含む4種の異性体が存在します。ここから先はややこしく、ペンタマンタンは10種類あり、そのうち9個は上記一般式を満たすC26H32ですが、残りの1個はC25H30です。増やしていくアダマンタンユニットがすでにある炭素を共有する位置にくるとトータルの炭素数が少なくてすむので、こういうことがありうるわけです。オクタマンタンになると5種の異なる分子式からなる100を越える構造があります。アルカンの場合は同じ炭素数なら必ず同じ分子式になりますから、どんなに構造が違ってもすべて異性体になりますが、アダマンタン同族体はユニット数が同じでもつながり方違うと分子式が異なってくるので“異性体”にはならないことになります。もちろん“シクロ”になると不飽和度(?)が1あがりますから分子式はまた変わり、シクロヘキサマンタンはC26H30です。
前置きが長くなりましたが、原油中には微量ながらこのようなアダマンタン同族体が含まれており、これまでにテトラマンタン4種、ペンタマンタン9種、ヘキサマンタン1種、ヘプタマンタン2種、オクタマンタン2種、ノナマンタン、デカマンタン、ウンデカマンタン各1種が単離、結晶化されています。
シクロヘキサマンタンは湾岸原油留分の逆相HPLC画分をアセトン中から結晶化させて得られました。結晶は写真では正八面体様に見えます。透明ですばらしく輝かしいそうです。著者らは10-21カラットのナノメーターサイズダイヤモンドとよんでいます(笑)。融点は314℃以上、マススペクトル(EI)ではほとんど分子イオンm/z 342しかみられません。13C NMRではδ38.6に6個分のメチレン、δ37.8、47.3にそれぞれ12個、6個のメチン炭素のシグナルがみられますが、2個分の四級炭素は分子内部にあって緩和時間が長いせいかシグナルがあらわれませんでした。これに関連して、ラマンスペクトルで1330-1380 cm-1にみられるピークがダイヤモンドで1332 cm-1にみられる内部全置換sp3炭素の振動かもしれないと述べられています。
さて、アダマンタンユニットでシクロヘキサンがつくれるのなら、アダマンタンでつくったアダマンタンだってつくれる道理です。アダマンタマンタン(C35H36)、これぞダイヤモンド骨格でつくった最小のダイヤモンドというべきでしょう。非常に対称性のよい構造で、分子モデルを動かしてみると次々に移り変わる形はとても美しく、さながら万華鏡をのぞいているようです。残念ながらこのダイヤモンド・オブ・ダイヤモンド分子、まだ単離も合成もされていません。幻の最小ダイヤモンドというわけですね。
ref. J.E.P.Dahl et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2003, 42, 2040-2044.