おもしろ化合物 第36話:「ひまわりの花」




 太陽に向かって咲くひまわりの花、英名sunflower。その花の形を炭素とイオウだけでつくってしまった分子、その名もsulflower (1)。名前といい形といいまったくでき過ぎですね。ちょうどチオフェン環が8個縮環した構造で、水素をもたないので八硫化十六炭素C16S8に相当します。環状芳香族分子circuleneのうちベンゼン環を環状につないだコロネン(第1話)やケクレン(第13話)はここにもすでに登場しましたが、ヘテロ芳香族環だけからなる類型分子はこれがはじめての合成例だそうです。

 このひまわりの花、どうやって合成されたかというと、まず3,4-ジブロモチオフェンから誘導可能な環状テトラチオフェンをLDAですべての水素をリチオ化し、イオウを作用させてポリチオラートとします。これを塩酸でクエンチしてポリチオールとしてからそのまま真空熱分解反応に供すると、テトラチオフェンから80%という高収率で1が得られました。合成法をみると今までつくられなかったのが不思議なくらいシンプルですね。16当量のLDAとイオウを同時に作用させて一気にポリチオラートにするところが鍵だそうです。

 このsulflower、イオウがはいって黄色ければ文句なしなのですが、惜しいことに暗赤色の粉末でした。ほとんどの有機溶媒に不溶でNMRも固体測定で得られています。また良好な結晶を得るのが困難なのでX線構造解析も粉末回折によって行なわれ、きれいな平面分子構造が確認されました。一方、トリフルオロメタンスルホン酸には溶けて深紫色のラジカルカチオン溶液となるそうです。ポリチオフェンというと有機導電体などの機能性分子への展開が期待されますがそのあたりの応用はまだまだこれからというところです。



 ref. K. Yu. Chernichenko, V. V. Sumerin, R. V. Shpanchenko, E. S. Balenkova and V. G. Nenajdenko, Angew. Chem. Int. Ed., 2006, 45, 7367.


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